仏教とともに伝来した東洋医学
中国医学が日本に入ってきたのは、飛鳥時代の初めに朝鮮半島から仏教とともに渡ってきた「医師≒僧侶」によるものです。
中国医学は、まず中国から朝鮮に伝えられ、その後朝鮮から日本に伝えられたことになります。
中国医学が直接伝わったのは西暦562年。中国人医師が医学書、薬学書を携えての来日から始まります。
医学が日本で急速な発展をしたのは「鑑真(がんじん)和上※1と21名(書物によってまちまち)の高弟」が来日したときからです。
奈良時代になると、日本で最古の医事法制度「医疾令(いしつれい)」に基づき、
鍼師(はりし)・鍼博士(はりはくし)・鍼生(はりせい)などの鍼灸に関係の資格制度も制定されました。
※1 鑑真和上・・・当時の僧侶は医師としての役割も兼任していましたので日本よりも医学が発達していた当時の中国の先端医療を携えての来日です。
詳しくはwikipediaをご覧ください。
日本で発達した鍼灸
日本のもっとも古い医学書は、平安時代に書かれた「医心方(いしんぽう)」です。
この医学書は、中国の医学書を基に日本の医学症例を加えて、より詳細に編集したものですが、
この時代に中国では戦乱で医学の崩壊があり医学書の焼失などで、この医心方を逆輸入して教本にしたと伝えられています。
同様に、中国の「文化大革命」の時代にも崩壊した医療を立て直すために中国は、鍼灸の治療技術・文献・機材を日本から取り寄せています。
治療技術と機材も日本で発達した
中国から入ってきた鍼の刺入法(刺し方)は「撚鍼法(ねんしんほう)」、鍼の材質は銅を基本としたものであったが、
日本では桃山時代に鉄・金・銀の鍼を作り出している。
また、鍼の刺入法も、現在ではあまり行われていないが、小槌で打って刺入する「打鍼法(だしんほう)」や、
江戸時代中期以降になると管を使う「管鍼法(かんしんほう)」が「杉山和一※2」によって生み出されている。
現在使われている方法は「撚鍼法」と「管鍼法」が主となっている。ちなみに、「打鍼法」は韓国に伝わり現在でも使われている。
※2 杉山和一・・・管鍼法の創始者。将軍から本所一つ目を拝領したり、最終的には正五位の官位まで追贈された鍼医師である。
ただ、この方はシャレにならないほどの不器用者。当時の鍼の刺入法は「撚鍼法」が主流、そんな不器用者の和一では、器用さを求められる「撚鍼法」ができるわけもなく、それが災いして弟子入りした師匠のところを、なんとクビになっている。
そんな不器用者の和一が何とかして鍼を刺入する方法を探し求めてできたのが「管鍼法」です。
詳しくはwikipediaをご覧ください。
シーボルトに鍼灸を教える
江戸時代に訪日した、オランダの医官「シーボルト※3」は、長崎から江戸まで「かご」に揺られて旅したため、激しい身体の痛みを訴え、御殿医(将軍のかかりつけの医者)の「石坂宗鉄」に鍼灸治療を受け、その効果の驚き、日本に初めての西洋医学を教える代償として鍼灸の治療技術と知識を会得して帰国した。
「シーボルト」は晩年退官してフランスにすむが、その地で鍼灸の治療技術を紹介したことは、フランスでの鍼灸治療の歴史が200年近いことを考えれば明白となる。
このフランスでの鍼灸治療が医療大国であったドイツに、すぐに波及したことも興味ある事実でしょう。
※3 シーボルト・・・ドイツ人医師でオランダ商館付の医官として日本に来る。ドイツ人であるため当時の日本人よりもオランダ語が下手だったらしいが、
自分はオランダの山奥育ちだからと苦しい言いわけをするが、オランダのことなんか知らない日本人はなるほどと納得してしまう。
帰国後は、大学で日本学の教授となりオランダ、フランス、ドイツ、ロシアなど色々な国へ日本を紹介した。
その時に鍼灸についても紹介していたらしい。ただ、このころになると、医者としての活動は全くなし。
オランダとの通商条約が結ばれシーボルト事件による追放令も解除されて日本に再度来日した時には、自分の知識より日本の蘭学の方が進んでいて困ったらしい。
ちなみにシーボルトは、産婦人科が得意だったそうです。
「シーボルト先生散策之図」 画 川原慶賀
鍼麻酔は日本が世界初
鍼麻酔は中国との連想があるでしょうが、昭和22年に日本で行われているのが世界初であり、文献に残っているのは昭和32年の西山英男氏の鍼麻酔であり、その文献をもとにして、中国は昭和33年に鍼麻酔を成功させている。
昭和46年のアメリカ人記者の報道で世界は鍼麻酔を知ることとなりますが、実は鍼麻酔は日本が世界初なのです。
※ちなみに、当院院長は当時勤めていた病院とその後勤務した病院で麻酔担当(麻酔医の管理下のもとで)として鍼麻酔を実践して手術に貢献しました。
一例として、当時の手術記録の中に以下の記載が残っています。「昭和47年6月6日から3日間続けて、虫垂炎の手術を鍼麻酔の下で行ったとの記録がある。
~中略~
54歳女性の手術は14時25分から14時50分まで。麻酔時間1時間、麻酔医 間中院長および佐藤莞爾(鍼灸師)と記されている。
そして、佐藤君の字で鍼の刺入場所と刺激の方法の記載があり、コメントとして、術後に患者は看護婦の肩を借り、歩いて2階の病室に帰った。全体的に効果があった。とも書かれている。」
文藝春秋企画出版 本田 正著「忘れ得ぬ人々 間中病院診察室から」より抜粋
鍼灸治療は世界に羽ばたく
意外に知られていませんが現在、鍼灸治療が行われている国は、日本・中国・韓国・台湾などの東洋圏以外に、フランス・ドイツ・オランダ・イギリスなどのEC圏およびオーストラリア・ニュージーランドなどのオセアニア圏、アメリカなど世界20ヶ国以上で行われています。
ただ少々情けないことなのですが、これだけ長い歴史や世界でトップの技術、知識を持っている我が国日本なのですが、実は世間的な認知度や行政的なフォローとしては、
中国・韓国・台湾などの東洋圏はもとより、ヨーロッパ圏やオーストラリア・ニュ-ジーランド、アメリカなどに負けていて、下手をすれば下から数えたほうが早いんじゃ?と勘繰ってしまうほどなのが現状です。
もうちょっと何とかしたいものです。